テレビでも何度か紹介されたことのある岡山の西粟倉村(にしあわくらそん)の「木工房ようび」をご存知でしょうか?
「木工房ようび」とは西粟倉村のひのきを使った家具を製作する会社です。
ここでは、世界がその品質とデザイン性を認めるひのき家具が作られています。
2016年1月には、火事で工房が全焼するという被害に見舞われながらも、再び立ち上がった工房です。「木工房ようび」が西粟倉村に誕生するまで、そして火事に見舞われ、火事以後のストーリーを知ると心から応援したくなるんですよね。
全国には「彼らにもう一度ものづくりをしてほしい」という声がたくさんあり、木工房ようびの家具を「買って応援する」ECサイトも立ち上がっています。
この記事では、西粟倉村が世界に誇るひのきを使った家具作り(ヒノキウインザーなど)を行なう「木工房ようび」についてお伝えします。
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ひのきで椅子を作るのは難しい?
ひのきの家具を作っている職人さんは他の地域にもいらっしゃいますが、「木工房ようび」のひのきの家具が評価されているのは、その卓越したデザイン性にあるのです。
ウインザーチェアってご存知でしょうか?
こういうのですね。
ウィンザーチェアは、17世紀にロンドン郊外のウインザー地方に住む民衆が、身近にある木を使い、持てる技術をフルに注ぎ込んで生まれた椅子です。
ウィンザーチェアは座り心地がいい!と、まずロンドンで話題になりました。その後、アメリカに渡り、世界中に広がっていったのです。
このウインザーチェアの材料の木ですが、座板にはマツやカバ、曲木にはブナやヒッコリー、トネリコといった木が使われることが多いようです。
そんな中、ひのきを使ってウインザーチェアを作れるのはおそらく世界でココだけです!
それだけの技術を持った工房なんですね。
NHK「サキどり」での紹介
村のほとんど(95%)が山林の岡山県北東部の山村、西粟倉村。

何十年もかけて育てた木の需要がなくなっていたところに、椅子には不向きとされていたヒノキで椅子を作る技術を持った人が森をよみがえらせる取り組みをはじめました。
「木工房ようび」の大島正幸さんです。
材質が柔らかく、細い木組みで作ることは困難といわれていたひのきを材料に、独自に編み出した木組みで美しいフォルムと抜群の座り心地の椅子を作ることに成功しました。
この椅子は、イギリスの有力紙でも絶賛されています。
It is beautiful and remarkably light.
(美しくとても軽い)
世界65の国と地域で売られている「MONOCLE」という情報誌でも大注目されているんです。
その情報誌のアジア支局長フィオナ・ウィルソンさんは言います。
「ヒノキでこんな椅子を作るなんて素晴らしいことです。この椅子を作った人が木のことを大事にしていることがよくわかります。」
ヒノキウインザーを触ったジョン・カビラさんはこう言います。
「うわー、すべすべ。そして木目が生きている」
ヒノキは白くて美しく、しかも軽い。ヒノキで椅子が作れればと思われてきたが、繊細なフォルムで丈夫な椅子を作ることがとても難しかったのです。
それを実現したのが岡山県西粟倉村の家具職人、大島正幸さんです。
彼はヒノキで椅子を作るだけでなく、この仕事を通して林業再生に挑もうとしているのです。
飛騨高山で家具職人をしていた大島さん。7年前に西粟倉村に移住しました。
西粟倉村の山主さんに新しい林業をしたいから見に来てくれと言われて、西粟倉村の森を見に来たのが最初でした。
大島さんは「うわー、いい森ですね」という感想を漏らしました。
山主さんは言います。
「そうだろ。いい森だろ。でもこの森の木を欲しがる人がいないんだ・・・」
西粟倉村では50年前に子孫に財産を残そうということでひのきの植林が行われたのですが、年々の成長に伴い木々の間隔が狭くなってしまいます。
手入れをせずに放置しておくと、太陽の光が入らなくなり、ひ弱な木になってしまいます。
良質な原木に育てるには、過密になる木々の一部を計画的に伐採する作業が必要です。
その作業の事を「間伐」というのですが、西粟倉村の森は間伐が行き届いておらず、やせ細った木がある状態でした。
そのとき、大島さんはこの森を何とかしたいという想いをもったそうです。
ここから大島さんの挑戦がはじまります。
作業場は地元の大工さんが工場だったところを「使っていいよ」と貸してくれました。
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最初にひのきの椅子を作ったときはうまくできたのでしょうか?
大島さんが今まで磨いてきた技術では全然ダメだったそうです。座ったら大丈夫だったけど、投げたら壊れたと。
強度試験に出すお金がなかったので、投げたり蹴ったりすることで強度を確かめていたんですね。
彼はヒノキで家具を作ることにとりつかれていたと言います。
建材としては重宝されていたひのきも繊細なフォルムを持つ家具には不向きでした。
どうすれば椅子に使えるのか?手探りでの作業が続きます。
1日20時間、あらゆる手法を試してみました。思いつく限りのことをやってみようと思って、組み方であったり、削り方であったりをひたすらやったそうです。
こんなうまくいかない状況が続いて、逃げたいとは思わなかったのでしょうか?とインタビュアーの問いに対して、大島さんは即座に「ないですね」と言い切ります。
「山主さんが育ててくれた木を長く使える、受け継がれるような家具にしたい。ちゃんと育った木をちゃんと長いこと使える家具にしたいという想いが強かった」
2年の試行錯誤を経て、ようやくひのきの椅子が完成しました。
そのときの感覚をこう語ります。
「50m走を下を向いて走って、パッと上を向いたら未来があった」
「どの種類の、どの大きさの、どんなバランスの木組みを入れるかという選択が重要。」
このノウハウこそが企業秘密らしいです。
成功の秘訣は仲間
大島さんの家具作りは村の仲間たちに支えられています。
ひのきの椅子の材料となる木材を製材所へ仕入れに行きます。
製材加工会社の社長は言います。
「大島さんてすごい職人なので、自分が厳しいところで育っているし、とにかく前に進む力がすごい。この人に木を使ってもらえるのはうれしいなと思う」
大島さんの作るウインザーチェアは13万円するのですが、どうでしょう?やっぱり高いと感じますか?
大島さんはこう言います。
「50年、80年とかけて育ってきた木を使っているので、椅子としても同じくらいの年数使えるようにしたいという想いを持って作っているということです。」
こんな想いをもって作った椅子はやっぱり評価されるんですね。
国内外から西粟倉村にひのきの椅子や家具を求めて訪れる人が増えているようです。
人口1,500人程度の山村に!!
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大島さんを襲った災難、試練
順調に事業を進めていた大島さんに試練が訪れます。
2016年1月、工房を火災が襲い、すべてを持っていかれたのです。
でも大島さんはやっぱり普通の人ではありません!
「あきらめるなんて思いもよらなかった。僕らはチャレンジャー。まだ何かを成し遂げているわけではなく、チャレンジの途中。ここで放り投げてしまっては不戦敗になる。逆にこの機会をより強い場にしようと思いました。」
何というマインドセットでしょう!トーマス・エジソン超えてません?
村の人たちも支えてくれたので「活動を通してお返ししたい」と大島さんは言います。
建設会社の社長は「大島君なら、絶対この会社を作り直すはずだ」という確信を持っていたそうです。
火事から約3ケ月後。4月には村の人が提供してくれた仮工場で業務を再開します。
いろんな人の力で機械も集めなおしたそうです。
工房の職人である渡辺さんはこう言います。
「仮工場だからクォリティの低いものが届いたと言われないように、さらにもっと飛躍したものを作っています。」
こうして木工房ようびは立ち直っていきます。
こんなアツい想いを持った人が作る家具。興味ありませんか?
木工房ようびの家具は完全オーダー制なので、注文してから半年以上かかることもあるようです。
本当にいいものを長く使いたいという考えの人にはピッタリの家具ではないでしょうか。
ひのきの特徴
さて、ひのきというとあなたはどんなイメージを持ちますか?
- ひのきのお風呂?
- アロマオイル?
- 花粉?
ヒノキは古代には火を起こすために使われていた木です。油分が豊富なんですね。そこから「火の木」と言われるようになったとか。
太古の時代(縄文時代)から人間の生活に密接に関わっていた木なんですね。
もちろん火をおこすだけでなく、ひのきでいろいろな道具を作りました。
弥生時代になると、日本に鉄の技術が入ってきました。このときカンナや斧といった道具が鉄で作られました。
その鉄の道具を使って、ひのきはいろいろなものに形を変えていくのです。
ひのきは加工がしやすかったんですね。
あの法隆寺にひのきが使われているのは有名ですよね。ひのきは建築材として非常に使いやすい木なのですが、建築材以外にも仏像、家具などに使われました。
ひのきが日本人の生活を豊かにしたといってもいいかもしれません。
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ひのきの特徴・・・香り
ひのきの香りって心が安らぎませんか?
ひのきの香り成分を「フィトンチッド」というのですが、ストレス解消、消臭、防ダニなどの効果があるそうです。
同じひのきでも産地によってフィトンチッドの種類が異なり、香りが変わってくるみたいですね。
ひのきの特徴・・・肌触り
ひのきは温かい黄色味を含んだ白色です。落ち着く色ですよね。
肌触りはなめらかで、やさしい感触です。回らないお寿司屋さんではひのきのカウンターを使っているお店がありますが、雰囲気いいなあ、落ち着くなあと感じるのはひのきの効果かもしれませんよ。
ひのきの特徴・・・強度が増す
ひのきの特徴として面白いのが切ってから200年間くらは強度が増していくということです。
ひのきは針葉樹の一種ですが、広葉樹は切ったときが最大強度で少しずつ弱くなっていきます。
一方、ひのきは切ってから200年くらいは強くなり続け、1,000年くらい経過したころに切ったときの強度に戻るらしいです。
不思議な木ですよね~。
こんな木で作ってもらった椅子、子供や孫に受け継いでもらえそうですね。